トヨタ・マークX
マークX(マークエックス、"MARK X")は、トヨタ自動車が製造・販売していた4ドア中型高級セダンである。生産工場は当初、岩手県の金ケ崎町(岩手県胆沢郡)にある関東自動車工業(現:トヨタ自動車東日本)の岩手工場、およびトヨタ自動車の元町工場であったが、初代モデルの途中から元町工場のみの生産となった。
かつて販売されていたミドルサイズセダン「マークII(MARK II)」及び「ヴェロッサ (VEROSSA)」の後継車種として登場。
販売開始当時、トヨタ自動車としては珍しく正式な商品発表を行う前にテレビCMなどで商品の一部を露出させて消費者の購買意欲をそそる「ティザー広告」を実施した。その内容はキャッチフレーズとアルファベットの「X」をかたどったシンボルマークのようなものを流し、左側のヘッドランプを少し露出するというものであった。また「マークX」の車名は無論、ボディのシルエットに関しても一切姿を見せることはなく、また後に登場した派生車種である「マークXジオ」でも同様にティザー広告を使った事前の宣伝活動が行われた。
それまでのマークII兄弟(マークII・チェイサー・クレスタ・ヴェロッサ)からの脱却を目的とし、モデルチェンジにあたり12代目クラウン(通称ゼロ・クラウン)で大幅に刷新されたプラットフォームの採用を契機に名称を含めた大胆な改革を実施した車が「マークX」である。
エクステリアは典型的な4ドアセダンであるものの、マークII時代の正統派からは一転して大胆なスタイリングへと変貌。インパクトの強いデザインが特徴の片側3連プロジェクター式ヘッドライトや厚みを持たせたトランクリッド、ミニバンに刺激されて居住性重視となったあげくルーフ高が高くなりすぎたX110系マークIIの反省から30mmから40mmも全高を低くして、走りのスポーツセダンへの回帰を図った。
こうして「新世代のスポーツセダン」として大胆で挑戦的なエクステリアデザインを取り入れたものが同車であり、とくにリヤバンパーとマフラーのテールエンドが一体化したディフューザー構造をトヨタ製高級セダンで初めて採用。クラウンやレクサスなど、このマークX以降に開発されたトヨタ製の高級セダンの多くもこれを踏襲している。4代目レクサス・LS(ハイブリッドも含む)や同じトヨタブランドの13代目クラウン、5代目クラウンマジェスタにも受け継がれた。
こうしたデザインである以上マフラー交換は容易には行うことができず、多くのトヨタ車用エアロパーツや北米トヨタのサイオン純正エアロパーツを手がける多数のメーカーから対応品が発売されている。ちなみにリアバンパーとマフラーのテールエンドは接合されておらず、バンパーの穴にマフラーのパイプ部分が若干の隙間を開けて挿入されているため、マフラーの排気性能や空力性能の向上にも貢献している。
新しく採用されたプラットフォームは12代目 (S180系)クラウンに先行採用されたものをベースとして運動性能の向上を目的に軽量化が施された。ここで採用された改良事項は、後にプラットフォームを共有する「レクサス (LEXUS)」のISファミリーやGSシリーズにも技術転用され、それぞれで熟成が図られ進化している。
エンジンはマークII時代に搭載されていた直列6気筒から新世代のGR系V型6気筒へと変更された。同車には12代目クラウンの前期型と同様に直噴 (D-4)仕様の2.5L (215PS)と3L (256PS)が採用され、2.5L (215PS)4GR-FSEエンジンはトヨタと長年の技術パートナーシップを組んでいる「ヤマハ発動機」にて生産されている。3L(256PS)3GR-FSEエンジンはトヨタ下山工場にて生産されている。トランスミッションはマニュアルモード付きの6速AT(四輪駆動車は5速AT)となり、マークIIファミリーの歴代モデルよろしく18インチアルミホイールを履いたスポーツグレードが設定されたものの、X70・X80系のGT-TWIN TURBO、X90・X100系のTOURER V、X110系のiR-Vなどに相当するMT搭載のターボエンジン搭載のスポーツセダンは消滅した。
また、クラウンやレクサスブランド車には設定のない「6:4分割可倒式リアシート」によるトランクスルー機能を持ち合わせていることがマークXの特徴である。なお、車体の形式記号はクラウンと同様に先代モデルとなるマークIIファミリーから引き続いて「“X”・・系」(マークXの場合はX120系となる)を名乗ることとなった。
2009年10月19日、初代の誕生からおよそ5年、「マークX」としてはモデル初のフルモデルチェンジを実施。「マークII」の時代から通算11代目のモデルとなる。月間販売目標台数は3000台(当時)と発表されている。
2代目のエクステリアは、glam tech(グラムテック)をキーワードにコンサバティブな「マークII」より大胆でアグレッシブとなった初代のデザインテイストをさらに熟成・昇華させ、より攻め込んだスポーツサルーンでありつつ上質なプレミアムカーとしての進化を図った。2009年10月販売型のキャッチコピーは、「"SAMURAI X"」である。CMには佐藤浩市を起用した(初回のマイナーチェンジまで)。フロントフェイスには初代のアイデンティティであった三連のヘッドランプとメッシュグリルも引き続き採用された。またリアコンビネーションランプもフロントと同じく三連タイプに変更され、さらにトランクリッドへもランプを追加した。
先代で採用されて後にトヨタが展開する高級車ブランド、レクサスのフラッグシップであるLSやIS F、そして同じトヨタブランドの上級車種であるクラウンやクラウンマジェスタにも採用されてプレミアムカーのアイコン的存在となった、リヤバンパーとマフラーのテールエンドが一体化している構造は今回、採用を見送り、レクサスのISやGSと同じバンパー別体のマフラーエンドへと変更された。
プラットフォームは12代目クラウン、3代目レクサスGSと共通のプラットフォームを先代に引き続き採用している。
エンジンは初代で新たに搭載されたGR系のV型6気筒を引き継ぐが、3Lエンジン(3GR-FSE型・256ps/32.0kgm)がレクサスIS350と同型となる3.5Lの「2GR-FSE型」(318ps/38.7kgm)へと換装され、大幅なパワー&トルクアップが図られて動力性能をより向上させた。また、2.5Lエンジン(4GR-FSE型)は従来のプレミアムガソリン仕様からレギュラーガソリン仕様へと変更され、パワー&トルクこそ従来型より若干低下したものの燃費性能は大幅に向上した。なお、全車トランスミッションを6速ATに統一したが、後述の通り、限定車のGRMNに6速MTが設定された(マークⅡを含む歴代モデルで唯一)。
但し、次世代のクラウンやレクサスGSには設定されているハイブリッドエンジンは設定されなかった。
3.5L車の全車には、クラウン・アスリートの3.5Lが搭載するアドヴィックス製の「アルミモノブロック4ポット対向キャリパー」と大径ディスクローター(17インチサイズ/334φ)を移植してストッピングパワーを引き上げ、さらにクラウン・アスリートよりも太い235/45/R18サイズのタイヤと18インチアルミホイールを採用して大幅に向上したパワー&トルクに対応している。
また、年々厳しくなる安全性能に対応すべくさらに装備を充実させた。7個のエアバッグや旋回時の横滑りを抑える「VSC」と加速時の車軸空転を防ぐ「TRC」、そして後部衝突時に頸部へ加わる衝撃を軽減する「アクティブヘッドレスト」を全車へ標準装備した。
平均燃費や渡航可能距離などを表示する「マルチインフォメーションディスプレイ」には高コントラストの白色有機ELを採用して視認性を向上させた。そしてラゲージスペースは4人分のゴルフバッグと鞄を収められるよう最大容量を拡大(480L)している。
価格帯は238万円から380万円(2012年8月改良型では250万円から540万円、2016年11月改良型では265.68万円から385.02万円)と幅広く、そして本モデルでの新たな試みとしてユーザーの趣味嗜好に合わせグレードを3種類に大別し、各々の性格をより強調して選択の幅を広げている。
「G's」はGAZOO Racingのテストドライバーがトータルチューニングを施してハンドリング性能を高める一方、架装工程のインライン化などによって価格を抑えたスポーツコンバージョン車で、ノア/ヴォクシー、ヴィッツ、プリウスに続く第4弾としてマイナーチェンジに合わせて発表された。
Sports type(「250G S Package」・「350S」)をベースに、コイルスプリングやショックアブソーバーに加え、ブッシュにもチューニングを施した専用サスペンションを採用し、各種メンバーブレースの採用や溶接のスポット点数の追加によりボディ剛性を高め、空力パーツを追加で配置。さらに、高剛性・軽量設計の19インチ鍛造アルミホイール、高性能タイヤ、ブレーキキャリパーを採用。フロントフェイスを専用デザインにするとともに、リアも4本出しマフラー(大径バッフル)を採用。シート表皮にアルカンターラを採用するとともに、運転席・助手席には「G's」エンブレム付専用スポーツシートを採用した。
なお、「Premium type」同様に、2016年11月のマイナーチェンジをもって廃止となり、2017年9月に発売を開始した「GR SPORT」に引き継がれた。
「GR SPORT」は、前述の「G's」に替わって投入されたスポーツカーシリーズである。マークXの他にも、ヴィッツ、プリウスPHV、ハリアー、ヴォクシー/ノアにも設定されている。
Sports type(「250S」・「350RDS」)をベースに、外観はホワイト塗装+GRロゴ入りのブレーキキャリパーと専用エンブレム(前後、サイド)を装備。内装はGRロゴ入りの専用スポーティシートと専用メーター、小径ステアリングホイール、LEDイルミネーションビームを装備し、ドアトリムやフロントシートなどには専用加飾やシルバーステッチを、ドアスイッチベースなどにはカーボン調加飾をそれぞれ施した。さらに、サスペンションに専用チューニングを施すとともに、スポット打点の追加とブレースの追加も行われた。
初代で好評だったトヨタモデリスタのプロデュースによる「Vertiga(ヴェルティガ)」と、クラウンアスリートでも設定された「+M SuperCharger(プラスエム・スーパーチャージャー)」という2種類のコンプリートカーが同時にリリースされた。
マークIIの後継車種ということもあり、取り扱い販売店は引き続き「トヨペット店」となっている。ただし、GRMNの2019年改良型は全国のGR Garageで取り扱われた。
なお、東京都では東京トヨタでも取り扱われていたが、2019年4月1日に東京トヨタの親会社であったトヨタ東京販売ホールディングス、東京トヨペット、トヨタ東京カローラ、ネッツトヨタ東京との融合により発足したトヨタモビリティ東京での取り扱いに移行され、併せて、カローラ店系列のトヨタ西東京カローラ、ネッツ店系列のネッツトヨタ東都とネッツトヨタ多摩でも取り扱われる。
マークXの取扱ディーラーであるトヨペット店の発足50周年記念モデルとしてトヨタモデリスタインターナショナルと共同開発した「Special Version Supercharger」と「Special Version」の2車種が全国100台限定で発売された。
特に「Supercharger」は、かつてのマークIIやチェイサーの「TOURER-V」などに代表されるハイパワースポーツセダンの後継として3Lの3GR-FSEにトヨタのセミワークスである「TOM'S」がエンジンチューニングを実施。TOM'SがOS技研と共同開発したスーパーチャージャーをドッキングして320ps/42.0kg-mまでパワーアップし、同時にトランスミッションをはじめとした駆動系にも手が入れられて強化されている。また、サスペンションもパワーアップに伴ってさらにチューニングが施された。そしてインテリアにも特別な素材を使って質感をさらに向上させるなど、そのカスタマイズ内容は多岐にわたる。
2015年スーパー耐久のST-3クラスに、埼玉トヨペット Green BraveがG'sをベースにしたマシンを2015年の第6戦に投入、2016年よりフル参戦を開始した。トヨペットにとっては、マークXは1968年にデビューしたコロナ、そしてマークIIに続く専売車種であり、レースを戦うならばたとえ不利でも、トヨペット店のシンボル車種であるマークXで戦いたいという強い希望あってのことだった。なお2017年途中からはGR SPORTにスイッチしている。その後、生産終了に伴い2020年途中よりクラウンにマシンを変更する予定であることが発表されたが、2019年コロナウイルス感染症の影響で延期されたことからフル参戦の予定となっている。
また同チームはSUPER GTのGT300クラスにてマザーシャシーにマークXのボディを架装したマシンを開発。2017年からまでフル参戦を開始した。その後、生産終了に伴い2020年よりGRスープラにマシンを変更する予定であることが発表された。
D1グランプリに参戦している高橋邦明が130型を使用して参戦している。この車両はエンジンを2JZ-GTEに換装されており、1,000馬力近いパワーを誇る。外装は2012年シーズン途中でG's仕様に変更された(なお変更した時点ではG's仕様はまだ発売前であった)。2014年にはチャンピオンとなった。