トヨタ・センチュリー
センチュリー("CENTURY")は、トヨタ自動車が1967年(昭和42年)から製造・販売している最高級乗用車(ショーファー・ドリブン・カー)である。
「センチュリー(世紀)」の名称は、初代モデルが発表された1967年(昭和42年)が、トヨタグループの創設者である豊田佐吉の生誕から100年であることに由来している。
主に日本国内の官公庁・企業などでの公用車・社用車(役員車)の利用を想定し、後部座席の広さや乗降のしやすさなど、快適性に重きを置いた作りにすることで、乗客をもてなす設計がとられており、御料車としても使用されている。基本として日本国内専用車種であるが、アジアやヨーロッパに対して少数の輸出実績があり、香港では、董建華初代特別行政区行政長官が、1997年の就任時にトヨタ自動車から特別に贈られたセンチュリー(ナンバープレートに香港特別行政区区章が飾られた)を公用車として常用していた。1998年には、主に日本政府の在外公館(在仏・在中国日本大使館など)向けとして、右側通行に対応する左ハンドル仕様が100台ほど生産・販売された。
センチュリーは徹底的に無駄を排除するトヨタ生産方式とは大きく異なる生産体制が採られている。生産はトヨタ自動車傘下のトヨタ自動車東日本(2012年6月までは関東自動車工業)の「センチュリー工房」で行われている。2代目モデルにおける溶接個所はカローラの3倍に上り、熟練工員が溶接作業に当たり、さらに別の工員が溶接痕をやすりで仕上げている。また組み立て工程も専属の作業員4人がグループを組んで担当している。塗装は通常の車両よりも長い時間をかけ、専門の検査員が「鮮映性」という独自基準でチェックしている。内装も各職人が担当する本木目パネルや本革シートが採用し取り付けにも細心の注意が払われるなど、手作業が工程の多くを占めている。またサイドミラーも2代目まではドアミラーを標準採用せず「フェンダーミラー」を使用していた。なお、センチュリーについてこのような生産体制を採る背景には、センチュリーがトヨタにとって特別な車種であり、高い品質が求められることに加え、各種技術の継承という側面もある。トヨタでは品質を保証するため、製造した全車両の組み上げ工程のデータを記載した「ヒストリーブック」を保管している。
なおショーファー・ドリブンの性質上、運転席は質感より実用性を重視しており、3代目で「マークX以上クラウン以下」という評価もある。
現行モデル(3代目)、および2代目モデルの内外装には、トヨタのCIマーク(三つの楕円)やロゴタイプは使用されていない(初代モデルでは「TOYOTA」の文字ロゴがトランクリッドに入っていた)。代わりに、1ヶ月かけて制作される「鳳凰」およびセンチュリーのイニシャルを象ったオーナメントがフロントグリル、ホイールセンターキャップ、ステアリング・ホイール、キー、エンジンフード、Cピラー等に使用され、リアのトランクリッドには「CENTURY」と表示されている。
かつては1,000万円を切る廉価で販売されていたが、物価の上昇で2016年3月には8%消費税込で1,253万8,286円から、3代目モデルからはハイブリッド化や自動ブレーキシステムなどの安全装備の搭載により、消費税込みで1,960万円となっている。セダンとしては高額な部類であるが、購入層は法人やドライバーを雇用できる高所得者であるため問題とされない。販売は高級車を中心としたトヨタ店(東京地区では1987年9月30日までは東京トヨペット専売で、同年10月1日からは東京トヨタ自動車でも取り扱いを開始し、2019年4月1日からはトヨタモビリティ東京で取り扱い、大阪地区では2006年8月7日まで大阪トヨペットで取り扱い)で扱われる。反社会的な人物や転売を目的としなければ購入者に制限は無いが、5%程度の手付金が必要である。
発売開始から半世紀余り経過した今日において、フルモデルチェンジが2回とモデルサイクルが非常に長い。2018年のフルモデルチェンジでハイブリッドモデルが登場するまでは、同じ高級車でハイブリッドモデルのあるレクサス・LSや財政の悪化により支出を抑制する観点から安価なミニバンであるアルファードが公用車の代替として導入が進んでいた。フルモデルチェンジでハイブリッド化がされた後は再びセンチュリーに回帰する動きがみられる。
世界の豪華車に匹敵するプレステージサルーンを目標にして開発(トヨタ博物館による解説)され、1967年(昭和42年)9月25日に発表、11月に発売された。以後細部の改良を受けながらも、1997年(平成9年)まで30年間に渡ってフルモデルチェンジなしで生産される希有な記録を作った。
設計主査を務めたのは、初代・2代目のトヨペット・クラウン、センチュリーに先立って発売されていたクラウン・エイトの設計主査であった中村健也で、彼が主査を務めて開発された最後のモデルとなった。先行投入されていた日産・プレジデントなど、既存の国産大型車のようなアメリカ製高級車の模倣ではなく、「伝統的な日本の美」を感じさせる、保守的ながら重厚さを持った独特のデザインテイストは、結果的に長期間陳腐化することがなく、その後のモデルチェンジごとに、センチュリーのアイデンティティーとして継承されている。
エンジンは、3V型OHV・3,000 ccエンジンから始まり、その後排出ガス対策等で3,400 cc(4V-U型、4V-EU型)、4,000 cc(5V-EU型)まで排気量拡大がなされた。
クラウンの構造拡大型に留まったクラウン・エイトとは異なり、センチュリーは全面的な新設計により開発された。その初期モデルは、当時のトヨタ車としては異例の複雑なメカニズムを採用しており、エア・サスペンションを組み込んだトレーリングアーム式サスペンションや、ギアボックスをスカットル上部に置き、リンケージの大半をエンジン上部に配置した操舵系(ナックルアームはストラットタワー頂部に配置)に代表される。これらは、当時の日本車はもとより欧米車でも事例は少なく、複雑なメカニズムが走行性能の向上に繋がったかは不明確であり整備性を悪化させる原因にもなっている。1990年代には販売時に運転の状況や、定期的なメンテナンスが受けられるかを審査することもあり、これが「購入者が審査される」という都市伝説の元になったという指摘がある。トヨタでは机上のスペックよりも現実の実用性能を重視するという考え方のもと、1982年(昭和57年)の大規模なマイナーチェンジの際に、フロントサスペンションをダブルトレーリングアームからマクファーソンストラットへ改め、操舵系も一般的な方式に改められ、リヤサスペンションもリジットアクスルで変わりないものの、当時トヨタ車多くが採用したラテラルロット付き4リンク式に改められ、構成部品が簡便化された。
初投入時のモデルであるVG20型には、オートマチックトランスミッションの装備が常識化していたアメリカ製高級車に対抗するため、当初からATが標準装備であったが、富裕層のオーナードライバー向けに、マニュアルトランスミッションの4速フロアシフト車(センチュリーAタイプ)も設定されていた。このMT車はVG21型へのマイナーチェンジ時に廃止されている。また、防弾装備が施されたセンチュリーは、当時の内閣総理大臣であった佐藤栄作の公用車として納入され、以後3代に渡って内閣総理大臣専用車として使用されている。
1997年(平成9年)、異例の長期生産が続いた初代から30年ぶりにフルモデルチェンジが行われ、2代目のGZG50型に移行した。当時最新の技術で製造された自動車でありながら、1967年(昭和42年)以来続いた初代モデルのデザインテイストをほとんど踏襲し、遠目には初代モデルの後期型(VG40型)と区別が付きにくい外観となった。下位モデルであるセルシオとの棲み分けのために先代モデルから価格帯を大幅に引き上げている。
日本製市販乗用車としては史上初にして唯一のV型12気筒エンジンを搭載、4カムOHC(片バンクあたりDOHC機構)の5,000 cc・280 PSで、基本構造はトヨタで長い実績のある既存の直列6気筒エンジン(JZ型)をベースにしている。エンジンの形式名は1GZ-FE型であり、片バンクの6気筒にトラブルが生じても、残りの6気筒が機能して走行できるようになっている。ブレーキをはじめ、その他の走行機器の多くにバックアップのための2重系統化が施されている。
内装の本木目パネルや本革シートは職人が手作業で制作したものが使われるなど、高級な素材と高度な技術が使われている。また、ボディーカラー名には「神威」(かむい、エターナルブラック)、「摩周」(ましゅう、シリーンブルーマイカ)、「瑞雲」(ずいうん、デミュアーブルーマイカメタリックモリブデン)、「鸞鳳」(らんぽう、グロリアスグレーメタリックモリブデン)、「精華」(せいか、レイディエントシルバーメタリック)、標準装備のウールファブリックシートには「瑞響」(ずいきょう)と、漢字を用いた和名が使用されている。助手席は随行員用であるため、バックレストを貫通させるオットマンや前に倒れるヘッドレスト、下部の収納スペースなどの機能があり、座席の位置は後部からも動かすことが出来る。Bピラーには靴べら入れがある。
車の性格上、オーナードライバーが自ら運転するケースは多くないものの、ショーファードリブン時とオーナードリブン時とで走行性能を切り替える機能もある。フロアシフト仕様が一般的であるがコラムシフト仕様も選択可能であり、また初代モデルは末期まで全車フェンダーミラーが装備でドアミラーを選択することはできなかったが、この代からフロアシフト車に限りドアミラーがオプション装備となっている。先代にあったフロントベンチシートやリムジンは廃止された。
カーステレオは短波放送の受信が可能で、音場の設定も優先を前後席で切り替える機能を搭載している。
2017年10月27日から開催された「東京モーターショー2017」で初公開され、2018年6月22日に発表、同日に発売された。2代目の販売終了から約1年4か月ぶりに再投入されるとともに、21年2か月ぶりのフルモデルチェンジとなった。
伝統と品格を守りつつ、「匠の技」を生かしたエクステリアデザインは、あえて傾斜を立てた重厚なクォーターピラーにより後席の存在感を強調するなど「几帳面」と呼称されるキャラクターラインを採用した。同時に一目でセンチュリーと分かるデザインでもあり、初代モデルからのアイデンティティーを継承している。この代から全車ドアミラーに統一された。「几帳面」の表現はプレス加工だけで出せないため、最終的には手作業で調整している。
ボディサイズは先代と比較して全長は+65mm、全幅は+40mm、全高は+30mmそれぞれ拡大。また、ホイールベースは65mm延長されている。ボディカラーの名称は、先代に引き続き「和名」が用いられている。イメージカラーの「神威 エターナルブラック」、先代から継続設定される「精華 レイディエントシルバーメタリック」、「摩周 シリーンブルーマイカ」、新設定の「飛鳥 ブラッキッシュレッドマイカ」の全4色が設定される。(なお、「神威 エターナルブラック」は名称こそ先代と共通だが、新規開発色である。トヨタの現行車種に多数設定されているボディカラー)。漆黒感を高める黒染料入りのカラークリアなど7層もの塗装に、研ぎと磨きを加えて奥深い艶と輝きを追求している。本塗装工程を含め、センチュリーの象徴であるフロントセンターの「鳳凰」エンブレムの作成等、随所に手作業の「匠の技」を取り入れており、塗装時間は1台あたり40時間をかけている。トヨタの塗装基準である「肌ランク」は通常のコンパクトカーが3.0程度なのに対し、センチュリーは4.5~5とされる。
プラットフォームは、トヨタ最新のTNGAではなく、4代目「レクサスLS」(ロングボディ車)用を新型センチュリー用に最適化させたものを採用。ホイールベースの数値や4輪マルチリンクのサスペンション形式も共通となるが、AVS機能付電子制御エアサスペンションの採用等により、センチュリー伝統の乗り心地の良さを継承している。
パワートレインには、2段変速リダクション機構付THS-IIを採用したハイブリッドシステムにダウンサイジングがなされた。エンジン・モーター共に4代目レクサスLSに搭載されていた仕様をセンチュリー専用にリファインしており、エンジンにはV型8気筒 5.0Lの「2UR-FSE」型、モーターには「1KM型」交流同期電動機を搭載。システム最高出力は431PS(317kW)を発生し、先代モデルが搭載したV型12気筒5.0L「1GZ-FE」型のパワースペック:280PS(206kW)を大幅に上回るパフォーマンスを獲得している。また、JC08モード燃料消費率も、先代の7.6km/Lから13.6km/Lに大きく改善され、「2020年度燃費基準+20%」を達成している。
安全面に関しても最新の予防安全技術が採用された。センチュリーでは初採用となる「Toyota Safety Sense」は、プリクラッシュセーフティ(歩行者[昼]検知機能付衝突回避支援タイプ/ミリ波レーダー+単眼カメラ方式)、レーンディパーチャーアラート(ステアリング制御機能付)、レーダークルーズコントロール(全車速追従機能付)、アダプティブハイビームシステム(アレイ式)の4点で構成されており、これらに加えて、ブラインドスポットモニター(BSM)や、リヤクロストラフィックアラート(RCTA)とクリアランスソナー&バックソナーを組み合わせた「パーキングサポートアラート(PKSA)」も採用されている。
パワートレインとプラットフォームに新開発の技術を用いなかった理由は、「『センチュリーは何があっても絶対に壊れてはいけない』という信念を最優先させ、実績と信頼性のあるユニットを採用したため」である。乗り心地を重視したためサスペンションは柔らかめの設定になっており、ドライバーには挙動をコントロールする技量と後部座席の人間に配慮する意識が必要との意見もある。
内装は先代と同様に後部座席を優先した設計であるが、マッサージ機能の強化やオットマンを使用しても助手席が使えるようにするなど細かな部分が改良されている。
手付金として100万円が必要であるが、購入の意思がなくてもハードカバーのカタログをもらうことが出来る。
社長の豊田章男は新車発表の際「センチュリーのGRMN仕様を作りたい」と話し、実際に2018年9月にこれを公道でお披露目した。一般的にセンチュリーは高所得者がドライバーを雇って運転するものというイメージが強いが、豊田はこれを自分でドライブしている。ただし、これは現時点ではあくまで社長専用車であり、市販の予定については語られていないほか、スペックについても明らかにされていない。なお、第95回箱根駅伝でよび第96回東京箱根駅伝で大会本部車として白が投入、2019年の東京オートサロンでは黒が出品された。
2019年9月から導入された御料車「皇9」からベース車がUWG60型に変更された。
2019年11月10日の第126代天皇徳仁の祝賀御列の儀に合わせ、コーニッシュIIIに代わるパレード用オープンカーのベースとして選定された。改造点は屋根の撤去とCピラーの切断、シートを白色の本革とし後部座席を若干高くして背もたれの角度を25度に固定している他、剛性確保のため車体を補強しているとされる。予算は8000万円とされる。
2020年には内閣総理大臣専用車として新たに一台内閣府に納入された。
2代目センチュリーをベースとするセンチュリーロイヤルは、宮内庁へ納入するために開発された御料車専用車種である。
都道府県知事車、議会議長車として用いられることある。しかし2代目から3代目へモデルチェンジするにあたり、納入価格やリース料も大幅に引き上げられたこともあり、公用車としての妥当性が報道等を通じて問われる例も見られている。広島県議会の議長車として納入された例では、2代目が1000万円台であったのに対し、3代目は1800万円と高騰したことが話題となった。議会事務局側は「安全性が高く、故障しにくい。20年ほど乗るつもりなので、長い目で見れば車種や費用は妥当だ」としている。兵庫県知事車と同県議長車のリース契約の例では、2代目から3代目へ契約変更するにあたり、7年間の料金が約1400万円から約2100万円に増加した。県知事はセンチュリーを使用する根拠して「広大な県土を走行できる馬力があり、高い安全性能を備えた車種。一方的議論が横行しているのは遺憾」とする答弁を行っている。