スズキ・キャリイ
キャリイ("CARRY")は、スズキ(1990年9月以前は鈴木自動車工業)が製造、販売する軽トラック。
9代目までは軽ワンボックスカーのラインナップ(キャリイバン)も存在したが、7代目からの併売時期を経て10代目キャリイ=3代目エブリイ中盤以降は独立した車名であるエブリイに完全移行している。
本項目では、ラージキャブを採用した派生車種のスーパーキャリイ("SUPER CARRY")についても便宜上、記述する。
2019年6月現在、同社の新車で購入できる自動車の商標としては最古の商標(11代58年)となる。
1971年~2009年までの39年連続で、日本国内で販売されているトラック(軽・小型・普通)の車名別年間販売台数第1位である。さらに、2010年1月で累計販売台数400万台を達成した。
シャーシ構造が全く異なる51系(9代目キャリイ/3代目エブリイ。トラックがFR、1BOXがMRと駆動方式すら違う)と16系(11代目キャリイ/現行エブリイ)を除いて、バンタイプのスズキ・エブリイと2002年までは共通の構造を多く有していた。スズキからマツダにOEM供給を行っているマツダ・スクラムのトラックタイプは、この車両を元に一部外装パーツの変更を行ったものである。またエブリイも1981年まではキャリイを名乗り、1991年〜1993年の間は上級車種以外の車種についてはキャリイバンの車名で販売されていた。
軽自動車の新規格に適合させるため1999年以降のキャリイはセミキャブ・ロングホイールベース仕様だったが、2005年11月におよそ7年ぶりにフルキャブ・ショートホイールベース仕様の「FC」系が追加された(ボディサイズは新規格で、農耕用に特化したタイプ)。ただし、OEM車種のスクラムトラックにはこの仕様が設定されなかった。2013年8月のフルモデルチェンジに伴ってフルキャブ・ショートホイールベース仕様へ統合され、OEM車種のスクラムトラックもフルキャブ・ショートホイールベース仕様へ移行された。
なお、欧米や東南アジア、インド、オーストラリア等では排気量を拡大したモデルが生産、販売され、また大宇国民車(現:韓国GM)からは9代目(エブリイにおける2代目)が「ラボ(LABO)」(エブリイは「ダマス(DAMAS)」)、南米ではシボレーブランドで「Chevrolet CMP」と言う名称でいずれも現在も生産されているが、ダマスはフェイスリフトを受けている。海外モデルは145の国と地域で展開されており、軽トラックを除いた累計販売台数は200万台以上となっている(2019年2月末時点)。
車名は英語で「運ぶ」の意味。なお、カナ表記に関しては「キャリー(長音)」「キャリィ(捨て仮名)」などと誤植されるケースが少なからず存在する。
1950年代後期の鈴木自動車工業は、オートバイ市場で成功する一方、軽乗用車からライトバンに発展した「スズライト・フロンテ」で4輪軽自動車市場の一角を占めつつあったが、市場のニーズに沿った営業上、当時ブームであった軽オート三輪トラックに比肩するようなタイプの商用車が求められたことから、フロンテよりもより本格的な商用車として開発された。社長の鈴木三郎は商機を逸するべきでないと考え、技術陣に「1年間で開発を済ませろ」と命じた。
スズライトなどの開発にも携わった稲川誠一が担当の設計課長となった。稲川らは、1年という短期間での急造では、試作を繰り返しての凝った設計を用いる余裕はない、と見切り、鈴木三郎には余計な口出しをしない確約をとったうえ、単純でトラブルの出にくい構造に徹する方針を採った。
シャーシは同時期の小型トラックに倣って、前後輪ともリーフスプリング支持・固定軸の低床ラダーフレームという、単純頑強で強度余裕のある構造を採用、商用車で問題となりがちな破損トラブルを回避した。専用の空冷直列2気筒・2ストロークエンジンも開発を先行させ、2輪車用の単気筒エンジンを2個つなげたような作りでシリンダごとの独立キャブレターを与え、高回転で出力を稼ぐ設計で完成させた(21ps/5,500rpm)。出力重視で高回転過ぎのエンジンになったが、トラックとしての全体スペックが決定した時点で、トランスミッション内の減速ギアで実用向けな回転数に落とすやり方で帳尻を合わせた。当然燃費は悪くなったが、実用面での動力性能が高かったことから、ユーザー側からは大きな問題にはされなかった。ギアボックスは時流に合わせて、1速以外シンクロナイザー付とした4速コラムシフトをおごり、運転しやすくした。
一方、この時点では二輪車事業の業績による資金調達力向上で、先行したスズライト(横置きエンジン、前輪駆動)ではまだ導入できなかったスパイラルベベルギア用の刃切り機導入(スイス・エリコン社製およびアメリカ・グリーソン社製)が実現したため、差動装置については自社で後輪駆動車用の歯車生産が可能となった。スタイルはセミ・キャブオーバーだが、エンジンはフロントシート下に配置するアンダーフロア型としている。
並行して、軽トラック専用の製造工場も愛知県豊川市に突貫工事で建設されることになった。建設の指揮を命じられたのは、銀行員から鈴木三郎の娘婿となり、1958年に鈴木自動車に入社していた鈴木修(のちスズキ社長・会長)で、会社中枢である企画部との対立を抱えながらの(社内失脚の危険含みの)特命であった。修は現場での陣頭指揮に立って、職人たち相手の膝詰めの交渉などにも懸命に取り組み、わずか9か月で豊川工場を完成させた。しかも建設予算3億円に対して最終費用は2億7千万円に抑え、3千万円を企画部に突き返した。豊川工場建設の実績は、鈴木修がスズキ社内での実力を認められるきっかけになった。
豊川工場のラインで量産が開始された初代キャリイ「FB型」は、単純堅実で信頼性の高い作りとエンジンの強力さ、30万円弱の低価格とが功を奏して商業的成功を収め、スズキの商用軽四輪車市場での地歩を確固たるものとした。
また海外ではL60型として、440cc29HPのエンジンを搭載したモデル(一方開、三方開、バン)が販売された。
2019年4月25日にインドネシアで発表。メガキャリイ/APVピックアップの後継車で、軽規格より一回り大きなボディに1.5Lエンジンが搭載される。
スーパーキャリイ("SUPER CARRY")は2018年に発表された、ラージキャブ(エクステンドキャブ)仕様の派生モデル(競合車のダイハツ・ハイゼットにおける「ハイゼットジャンボ」に相当)。2018年4月16日付でティザーサイトが公開されており。2018年5月17日付で販売が開始された。型式は11代目キャリイと同じ「DA16T」となっている。
この「スーパーキャリイ」の名称は元々、海外向けの車種名として用いられており、長年、ベトナム向けにベトナムスズキ社を通じて生産・販売が行われており、2016年7月からはマルチ・スズキ・インディア社がインド向けモデルの生産・販売が開始された経緯があるが、名称が同じなだけで仕様が全く異なっており、ベトナム向けでは、8代目キャリイをベースに左ハンドル仕様に変え(当時のキャリイでは「SUZUKI」ロゴだったフロントデザインもSマークに変更されている)、エンジンは970cc・4気筒のF10A型エンジンに置換、インド向けでは、専用のボディデザイン・設計となり、エンジンは800ccのE08A型直列2気筒DOHC8バルブディーゼルエンジンが搭載されており、いずれも軽トラックよりも排気量が大きい小型トラックとして販売されている。
開発のベースとなっているのは、第45回東京モーターショー2017に参考出品されたコンセプトモデル「キャリイ軽トラいちコンセプト」で、軽トラ市への出店を想定し、キャビンを従来型より広く取った、「居住性・ゆとりある室内空間」を重視する顧客に対応したモデルであり、この時点でキャビンの窓ガラスが車検対応仕様(すなわち市販化を念頭に置いた設計)となっていたことが明らかになっている。また東京オートサロン2018では「キャリイフィッシングギア」を参考出品、釣りでのレジャーユースを想定したカスタマイズが施された。
キャリイに比べてキャビンが後方へ460mm拡大、全高が120mm高くなったラージキャブ仕様で、運転席は最大40度のリクライニング機構が追加され、シートスライド量はキャリイよりも40mm長い180mmとしている(リクライニング機構とシートスライドは助手席にも搭載されているが、リクライニング角度最大24度、スライド量100mm)。ラージキャブ化により、オーバーヘッドシェルフが標準装備され、高さ920mm×横幅1,235mm×長さ250mmのシートバックスペースも設けられた。また、軽トラックで初の助手席前倒し機構が搭載され、シートバックテーブルも装備された。キャビンが拡大した分、荷台長はキャリイより短くなっているが、キャビン後方の下部に高さ230mm・奥行き495mm・幅1,315mmの開口部を設けており、荷台長1,480mmに対し、荷台フロア長は1,975mmが確保され、荷台フロア長だけで比較すれば、キャリイよりも55mm短い程度にとどまっている。これにより、標準的サイズのコンパネや、長尺の柄がある道具なども、少量であれば積載可能なスペースを確保している。
グレード体系は「L」と「X」の2グレードが用意される。装備内容は「L」がキャリイの「KCエアコン・パワステ」、「X」がキャリイの「KX」にそれぞれ準じているが、キャリイの該当グレードと異なる点として、前後誤発進抑制機能が標準装備になるほか、全車オーディオレス仕様(オーディオレスに伴い、「L」はインパネボックス非装備)となり、ヘッドレストは一体型タイプに変更。荷台ステップは運転席側のみとなり、ユーティリティナットが追加される。さらに、「X」は専用装備として、運転席バニティミラーとトップシェードガラスが追加され、ファブリックシートは撥水加工が施され、UVカット機能付ガラスはフロントドアにも装備され、フォグランプベゼルとドアハンドルはメッキに変更される。カラーバリエーションは「KX」と同一の5色展開となり、トランスミッションはキャリイ同様、5MT・3AT・5AGSの3種類が設定される。
2019年9月にキャリイ同様に一部仕様変更され(2型)、「デュアルカメラブレーキサポート」、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能、ハイビームアシスト、ESP、オートライトシステム、ヒルホールドシステム(5MTは除く)が標準装備され、ボディカラーの「ガーデニングアクアメタリック」を「クールカーキパールメタリック」に入れ替え、ヒーターコントロールパネルをダイヤル式に変更。また、5AGSは「X」のみの設定となった。
なお、キャリイのOEM仕様であるマツダ・スクラム、日産・NT100クリッパー、三菱・ミニキャブには「スーパーキャリイ」に相当するラージキャブモデルは用意されていない。