スズキ・SX4
SX4(エスエックスフォー)はスズキが製造・販売するクロスオーバーSUVである。初代モデルにはセダンも設定されていた。
フィアットとの共同開発車として登場した。もっとも、設計・生産に関しては、スズキの生産拠点で製造が行われ、エンジン(ディーゼルを除く)およびプラットフォームもスズキのスイフトと同じものが使用されるなど、非常にスズキ色の強い車である。フィアットでは姉妹車「フィアット・セディチ」として販売されていたが2014年に終了し500Xにバトンタッチした。スズキでは(車両コンセプトは多少異なるが)エリオの後継車種に相当する。
デザインはジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインが担当している。「X-OVERREVOLUTION(クロスオーバーレヴォリューション)」を開発コンセプトとし、スポーティーコンパクトカーとSUVを融合(クロスオーバー)させたモデルとして開発された。運動性能を重視したハッチバックタイプのコンパクトカーでありつつも、全高1,585mmと高めのボディに加え「X○」系のグレードにはフェンダー部にサイドクラッディング(モール)を入れるなど、SUV的要素が取り入れられている。当時、スズキでは「スポーツ・クロスオーバー」と称していたが、実際には日本ではそれまでほとんどなじみのなかったコンパクトクロスオーバーSUVの嚆矢ともいえるモデルでもある。なお全幅が1,730mm~1,755mmのため、日本国内では全車3ナンバーとなる。エンジンはガソリン2種類(1.6L・2.0L)と、フィアット製の1.9Lディーゼルターボが用意される。
一方でWRカー化を前提にしたスポーツコンパクトとしても開発されており、同社スイフト比でねじり剛性で10%以上、曲げ剛性では20%以上、リヤサスペンションの取付剛性も190%以上強化された。
2007年3月にジュネーヴモーターショーでセダンモデルが発表された。エリオセダンの後継との位置づけで、エリオセダンの後継車。日本および北米に先駆けて中国およびインドで先行発売され、日本では同年7月に発売された。
2013年(平成25年)3月のジュネーブモーターショーで発表された。2012年9月に開催されたパリモーターショーで発表されたコンセプトカー「S-Cross」のエッセンスを色濃く受け継ぎながらも、より市販向けのデザインとされた。
初代ユーザーからの声を反映した結果、車体寸法(全長 x 全幅 x 全高)とホイールベースを拡大(それぞれ165×10×10 mm、100 mm)してフルBセグメント(BCセグメント)からCセグメントへとクラスアップされ、カーゴスペースの容量も430Lに拡大。
なお、先代で設定されていた4ドアセダンはシアズを後継として当代では廃止された。
エンジンは改良された自社製の1.6Lガソリン仕様のM16A型とフィアットから供給を受ける1.6Lディーゼルターボエンジン仕様の「」の2種(共に直4)で、前者には5MTとCVTが、後者には6MTが用意される。(ただし、日本仕様車にはマニュアルトランスミッションもディーゼルターボエンジンも設定されていない)
4WDシステムは「i-AWD」からさらに進化した新開発の「ALLGRIP(オールグリップ)」を採用。アクセルセンサー・操舵角センサー・車速センサーなどの情報を基に、車両の挙動変化後の対応だけでなく、挙動変化を予測して車両が不安定になる前に対処するフィードフォワード制御を備えた電子制御4WDシステムをベースに、通常は燃費を重視した2WD走行で、タイヤのスリップを検知した時に自動的に4WD走行に切り替わり、走行が安定すると再び2WD走行に戻る「AUTO」、直進加速時に4WDで走行し、アクセルオフで減速中にステアリングを切り始めると2WD走行に切り替えて旋回性を高める「SPORT」、雪道やアイスバーンの走行時に、低速クルーズ走行での直進時では2WDで走行し、この状態でコーナーに進入するとトラクションコントロールを作動することで不必要なタイヤの空転を抑え、ステアリング操舵に応じて後輪にトルク配分することで操舵安定性を高める「SNOW」、ぬかるみや雪でスタックした際に空転輪にブレーキをかけ、残りの接地しているタイヤにトルクを配分し、駆動力を直結に近い状態で固定して前後輪に駆動力を最大限に伝えることで緊急脱出する「LOCK」を切替できる4モード走行切替機能、操舵角センサーやヨーレイトセンサーなどで総合的に走行状態を監視し、4WDシステムと電動パワーステアリングを協調制御することで横滑り傾向を抑える車両運動協調制御システムで構成されている。併せて、車両運動協調制御システムが作動してもスリップや横滑りが発生する場合には安全装備の一つとして標準装備されているESPが作動する。
ホイールはPCDが114.3、穴数が5H、ハブ径が60mmである点は先代と共通であるが、固定方法はナット留めではなく欧州車流儀のボルト留めに変更されている。
生産はマジャールスズキで行われ、2013年秋からイギリスやイタリア、フランスをはじめとした欧州各国に輸出され、2014年(平成26年)5月からは子会社の金鈴汽車を通じて台湾市場でも販売を開始しており、2015年(平成27年)2月には日本市場でも発売を開始した。このほか、中南米や大洋州、アフリカにも輸出されている。中国市場については長安鈴木汽車を通じ、2013年12月から生産・発売している。また、インドではマルチ・スズキ・インディアを通じて2015年8月より生産・発売を開始した。
なお、名称はハンガリー・欧州各国・日本などでは「SX4 S-CROSS」の名称となるが、台湾では「SX4 CROSSOVER」(前期型)→「SX4」(後期型) 、中国・オーストラリア・インドでは「S-CROSS」(中国語表記:骁途)と地域ごとに名称が異なる。
2006年3月のジュネーブモーターショーで2007年8月からのWRC(世界ラリー選手権)へのフル参戦が発表され、WRCコンセプトカーが参考出品車された。同年7月4日の日本での新車発表会の場においてプロトタイプが展示され、テスト走行の動画も公開された。実際のマシンの開発やオペレーションはJWRCも担っていた田嶋伸博率いるスズキスポーツが担当する。
なおWRCは2007年シーズンを全9戦の開催とし、2008年シーズンを2007年8月から開催するウインターリーグ制の導入を検討していたため、スズキはこれにあわせて2007年8月からのフル参戦を予定していた。しかし、2006年7月5日に国際自動車連盟 (FIA) はウインターリーグ案を白紙撤回、2007年はこれまでどおり全16戦で行われることになった。そのため、当初の予定より半年早く参戦するか、逆に半年遅らせるかの選択を迫られた。その結果2006年7月20日、スズキは当初より半年遅らせ2008年からのフル参戦を発表した。
2007年は10月12~14日のツール・ド・コルスと11月30日~12月2日のラリーGBにテスト参戦した。
フル参戦デビューとなった2008年は、開幕戦ラリー・モンテカルロでパー・ガンナー・アンダーソンが8位入賞という好調な滑り出しとなった。しかしその後はエンジンやサスペンションなどにトラブルが発生し、前半戦はどちらか1台が走り、2台ともデイリタイアというイベントも多かった。そこでフィンランドからは、それまで発生していたトラブル抑止と軽量化(車重は1,230kgで変わらず)を狙った改良版を投入した。その結果地元の日本(北海道)で10月31日から開催されたラリージャパンではアンダーソンがスズキ最高位の5位入賞を果たしている。なお第11戦ラリー・ニュージーランド終了後、田嶋はチーム指揮からマシン開発部門へ異動となっている。
しかし翌2009年シーズン開幕一ヶ月前の2008年12月15日、スズキはリーマン・ショックによる経営上の判断によるWRC参戦休止を表明した。
2009年にはそれまでのXL7に変わり、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムのベースマシンとして採用。今まで同様、チューナー・ドライバーともに田嶋伸博である。名前と本体形状こそSX4だが、鋼管フレームベースの徹底的に軽量化された車体に、最高出力885PSを誇る2.7L・V6ツインターボエンジンをミッドシップに搭載し、巨大なエアロパーツを付けた「モンスター」である。前回に比べてやや路面状況が悪かったものの10分15秒368のタイムを記録し、総合優勝を遂げた。また、この年のパイクスピークは田嶋を含む参加した日本人選手全員が完走を果たしている。
2010年4月27日、2010年のパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムに出走するためのスペシャルマシン「SX4・ヒルクライムスペシャル」が発表された。排気量を3.1 Lに、そして最高出力を910 PSまでスープアップしている。同年6月27日、決勝にて10分11秒490を記録。目標であった「10分の壁」は破れなかったが、2位のポール・ダレンバック選手に28秒差をつけ総合優勝5連覇を達成。また、決勝日は田嶋の60歳の誕生日でもあり、還暦を自らの優勝で祝った。
2011年、舗装路が増えていくパイクスピークの路面状況に合わせ、マシンの各部品を細かくアップデート。エンジン等のスペック上は2010年モデルとほとんど変わらないように見えるが、高速化に対応した設定を施される。
同年6月26日、決勝当日のパイクスピークの天候は快晴。前日の予選をトップタイムで通過した田嶋はこの日も快調に走り続けたが、フィニッシュ手前2つ目のヘアピンでファンベルトが切れ、ウォーターポンプが停止するというトラブルが発生。それにより水温が急上昇してオーバーヒート状態になり、パワーステアリングも徐々に機能を失っていった。しかし、それらのトラブルを抱えながらもリタイアすることなくゴールし、9分51秒278を記録。直前で大きなトラブルに見舞われながらも、「10分の壁」を破ることに成功した。2012年以降のパイクスピークの路面はすべてアスファルト舗装されたため、2011年の記録はダートを含むコースでの最高記録となった。
SX4はスズキ初の普通乗用車サイズの燃料電池自動車のベース車にもなっており、2008年6月24日にSX4-FCVの国土交通大臣認定を取得、同年7月の洞爺湖サミット・環境ショーケースでお披露目された。ワゴンRFCV/MRワゴンFCV同様ゼネラルモーターズ製の燃料電池(最高出力80kW)を搭載するが、スズキの燃料電池自動車では初めてエネルギー回生吸収および動力アシストを採用するためキャパシタを搭載する。最高速度は時速150km、設計航続距離は250km。
「S」はSPORTまたはSPORTYのそれぞれの頭文字、「X」はX(=CROSS)-OVER(クロスオーバー)の頭文字、「4」は4WDと4SEASONS(四季)のそれぞれの頭文字を組み合わせて命名されている。