スズキ・ハスラー
ハスラー ("HUSTLER") は、スズキが生産・販売しているクロスオーバーSUV (CUV) タイプの軽乗用車である。
軽トールワゴンとスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)の双方の要素を融合させた新ジャンルの軽自動車で、アウトドアやスポーツといったレジャーを好むユーザー、あるいはわだちや雪道といった起伏のある路面を走行する機会が多いユーザーを想定した、「アクティブなライフスタイルに似合う軽クロスオーバー」をコンセプトに開発され、クロスカントリー4WDのジムニーとの棲み分けを図っている。
誕生のきっかけとなったのは、ユーザーの声であった。かつてスズキには大径タイヤを履き地上高を高くしたセダンとSUVのクロスオーバーである「Kei」が存在したが、2009年(平成21年)に生産終了となっていた。その後、スズキ会長である鈴木修が会食の席で、Keiの生産終了を惜しむ声を聞き、軽クロスオーバーの需要があると判断し、後継車として開発を進めたモデルがこの「ハスラー」である。
Keiのコンセプトを引き継いでいるというものの、スズキにとってはトールワゴンのクロスオーバーモデルという「未知のジャンル」であったが、初代モデルは月間販売台数目標の5,000台を遙かに超えるバックオーダーを抱えることになり、グッドデザイン賞やオートカラーアウォードなどの受賞も相まって、高い評価を得た。
5代目ワゴンRと共通のプラットフォームを用い、Aピラーを立ててルーフの長さと幅をとることでゆとりのある頭上空間を確保し、体感的にも視覚的にも軽ワゴン車と同等の室内空間を持たせる一方、軽乗用車としては大きめの15インチホイールを用い、サスペンションストロークの変更を行うことで最低地上高は180 mm(2WD車の場合。4WD車ではリアデフ下の175 mm)を確保。さらに、アプローチアングルを28°、デパーチャーアングルを46°とすることで起伏のある路面でのパンパー接地を低減。フロントスタビライザーを全車に採用し、ショックアブソーバーの減衰力をチューニングしたことで安定感のあるハンドリングとSUVらしい重厚な乗り心地を確保している。なお、大径ホイールを採用しているにもかかわらず、最小回転半径は4.6 mとしており、小回り性にも優れている。
外観はヘッドランプ周囲をメッキガーニッシュで装飾し、黒のバンパーにシルバー塗装のバンパーガーニッシュを採用。さらに、フェンダーアーチモールとサイドスプラッシュガードも黒で統一することで力強さを表現している。内装はカラーパネルをパイプでつなげたインパネを採用し、ドアトリムにもカラーパネルを採用。カラーパネルはボディカラーにより異なり、「パッションオレンジ / ホワイト2トーンルーフ」設定時は「パッションオレンジ」、その他のボディカラーの場合は「ピュアホワイト」となる。このカラーパネルは植物由来のイソソルバイド(バイオエンジニアリングプラスチックの一種)を原料とした三菱化学の高機能透明樹脂「DURABIO(デュラビオ)」が用いられており、樹脂に顔料を直接配合することにより発色が可能なことから、塗装によるVOC(揮発性有機化合物)の低減と高い質感を両立している。シートは黒を基調にボディカラーによって異なる4色のシートパイピング(「A」はパイピングなし)を採用している。ボディカラーは通常のモノトーン色5色に加え、「A」を除く全グレードで設定できる「ホワイト2トーンルーフ」・「ブラック2トーンルーフ」各3色を加えた全11パターンが用意され、「ホワイト2トーンルーフ」に関してはすべて新色である(パッションオレンジ、サマーブルーメタリック、キャンディピンクメタリック)。
販売店アクセサリーの純正カーナビゲーションには、スペーシア / スペーシアカスタム / スペーシアカスタムZに引き続き、スズキでは2車種目となるワイドDINサイズ(幅200 mm)のワイドナビ4機種が設定され、市販のワイドDINサイズカーナビゲーションも、インパネのオーディオガーニッシュを販売店アクセサリーのオーディオ交換ガーニッシュ(ワイドDIN対応)に変えることで装着可能となっている。
主催団体によって異なる車種が選出されることが多いカー・オブ・ザ・イヤーにおいては、RJC(日本自動車研究者・ジャーナリスト会議)と日本自動車殿堂の2団体で受賞したほか、オートカラーアウォードでは「ホワイト2トーンルーフ仕様車」の3色すべてが軽自動車初のグランプリを受賞。さらに、2014年から新設されたYahoo!検索大賞では2014・クルマ部門を受賞するなど、発売初年から多くの賞を受賞した。また、販売台数においても発売初年で10万4233台(全国軽自動車協会連合会発表の軽四輪車新車販売台数速報より)となり、スズキが8年ぶりに軽自動車年間販売台数No.1の座を奪還する大きな要因となった。
3代目ワゴンRから続くプラットフォームと富士重工業(当時)との共同開発によるフロントサスペンションロアアームを用いる最後のモデルである。サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット、リアが車軸式のアイソレーテッド・トレーリング・リンク(I.T.L)である。
エンジンはR06A型で、自然吸気 (NA) とインタークーラーターボ付きの二種類が用意される。「スズキグリーンテクノロジー」を採用しており、新軽量衝撃吸収ボディー「TECT」を全車に、空調ユニットに冷房運転時に凍る蓄冷材を搭載することで、アイドリングストップが作動して送風運転に切り替わっても冷たい風を送り続けることができる「エコクール」を「A」を除く全車に採用。さらに、「A」を除くCVT車にはアクセルOFFの段階でガソリンの供給をカットし、ブレーキを踏んで13 km/h以下になるとエンジンを自動停止するアイドリングストップシステムと減速時に高効率・高出力型のオルタネーターで発電し、2種類のバッテリー(鉛・リチウムイオン)に充電、アイドリングストップ中と走行中に2種類のバッテリーに蓄えられた電力を電装品に供給することでガソリン消費による常時発電を無くし、燃料消費の最小限化とエンジン負荷の低減に貢献する「エネチャージ」も搭載する。「G」の5MT車には走行中にブレーキを踏んで停車し、シフトレバーをニュートラルに戻してクラッチペダルを離すことでエンジンを自動停止する停車時アイドリングストップシステムを備えており、再度クラッチペダルを踏み込むことでエンジンを再始動する。エンジン再始動時の動作はエンジンリスタート機能によるもので、エンスト時にも同様の動作を行うことでエンジン再始動ができる。これらによってすぐれた低燃費を実現し、CVT車はターボ車やアイドリングストップシステム・「エネチャージ」非装備の「A」を含め、全グレード「平成27年度燃費基準+20%」を、5MT車はアイドリングストップシステムの有無を問わず「平成27年度燃費基準+10%」をそれぞれ達成している。
さらに、アイドリングストップシステムについては、新たに、エアコン使用時にアイドリングストップを開始するタイミングとアイドリングストップ状態からエンジン再始動させるタイミングを、燃費優先・標準・快適優先の3つのモードの中から設定できるアイドリングストップ空調設定カスタマイズ機能とアイドリングストップシステムが作動しない理由やアイドリングストップ状態からエンジンが強制再始動する理由をインフォーメーションディスプレイに表示し、エンジンの強制再始動時には1回ブザーを鳴らしてドライバーに知らせるアイドリングストップインフォメーションを採用し、より利便性を高めた。
2015年(平成27年)5月の一部改良で、「A」を除くNA・CVT車は「エネチャージ」から「S-エネチャージ」(マイルドハイブリッド)に変更。新たに搭載したモーター機能付発電機(ISG = Integrated Starter Generator)により、減速(電力回生)時にバッテリーに蓄えた電力から電装品へ供給するだけでなく、発進時や加速時にISGによるモーターアシストを行うことで燃費を向上する。リチウムイオンバッテリーはモーターアシストに必要な大電流に対応した専用品に変更される。なお、ハスラーに搭載される「S-エネチャージ」はモーターアシスト時間を最長6秒間から最長30秒間に、モーターアシストの速度域を15km/h - 85km/hから発進後 - 約85km/hにそれぞれ拡大してモーターアシストの時間と頻度を増やした改良型となる。同年12月の一部改良により、ターボ車も「エネチャージ」から「S-エネチャージ」に変更。ターボ車ではモーターアシストの速度域を約100km/hまでとし、NA車よりもアシスト時間と頻度を拡大している。
また、「A」を除く4WD・CVT車には滑りやすい急な下り坂で、エンジンブレーキだけでは減速できない時やブレーキペダルを操作して車両をコントロールするのが難しい時に、ブレーキ操作なしで約7 km/hのゆっくりした一定の速度で降坂するヒルディセントコントロールと、滑りやすい路面での発車時にエンジントルクやブレーキが効果的に作動するように制御(例えば、1輪が空転した際にはその車輪のブレーキ制御を早め、グリップ側の車輪に駆動力を集中)することでスムーズな発進ができるグリップコントロールを軽自動車で初めて採用した(どちらもEBDの応用による)。
「G」のCVT車と「J」及びターボ車はステレオカメラ方式の衝突被害軽減ブレーキ「デュアルカメラブレーキサポート」をはじめ、誤発進抑制機能、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能が標準装備されており、エマージェンシーストップシグナルとESPの2点は、5MT車を含めた全グレードに標準装備されている。
初代からのキープコンセプトでなおかつ、丸型ヘッドランプの採用など初代の意匠をほぼ踏襲しているものの、正面から見た側面上部の絞り込みを減らしてよりスクエアな意匠としており、バックウィンドウを立ててルーフ長を約120mm伸ばし、リアドア後方にクォーターウインドウを追加。また、8代目アルトや6代目ワゴンRにも採用されている軽量・高剛性設計のプラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」の採用によってホイールベースが35mm延ばされて2,460mmとなり、その分を前後間シート間隔の伸長に充て、リアシートの居住性改善が図られた。一方で、ロングホイールベース化されても最小回転半径は初代モデルと同じ4.6 mとしたほか、最低地上高は初代モデルと同じ180mmを確保し、アプローチアングルを1°拡大して29°に、デパーチャーアングルを4°拡大して50°にすることで走破性が向上された。
内装においては、インパネのカラーガーニッシュは上下のバーでガーニッシュを挟み込んだ3連カラーインパネカラーガーニッシュとなり、シートは縞鋼板柄の表皮にカラーアクセントが配された。インパネ・ドアトリムのパネルやシートのアクセントの色はバーミリオンオレンジ、デニムブルー、グレーイッシュホワイトの3色があり、通常はバーミリオンオレンジとデニムブルーはボディカラーと連動、それ以外のボディカラーはグレーイッシュホワイトとなるが、2代目では受注対応により、シフォンアイボリーメタリック、ピュアホワイトパール、アクティブイエロー ホワイト2トーンルーフの場合はバーミリオンオレンジ内装が、オフブルーメタリック、ブルーイッシュブラックパール3、ブリスクブルーメタリック ホワイト2トーンルーフはデニムブルー内装が、バーミリオンオレンジとデニムブルーメタリック(ともにガンメタリック2トーンルーフ)はグレーイッシュホワイト内装がそれぞれ設定可能となる。
ラゲッジスペースにおいては、リアシートの背面やラゲッジ部に防汚素材を採用するとともに、リアシート背面に荷室からでも操作可能なスライド用ストラップが追加され、荷室下に防汚タイプのラゲッジアンダーボックスを採用。着脱式となっており、外すことで荷室高が高くなり背丈のある荷物の積載が可能になるほか、ボックス自体は丸ごと水洗いが可能となっている。
NA車はエンジンを新型のR06D型に変更。1気筒あたり2つのインジェクターで燃料を微粒子化することで燃料と空気の混合気を均質化し、燃焼効率を高める「デュアルインジェクションシステム」や燃焼温度を抑えることでノッキングの発生を抑制して最適なタイミングでの燃焼を実現させる「クールドEGR」がスズキの軽自動車で初採用された。ターボ車のエンジンには初代のR06A型が継続搭載される。CVTは軽量化と高効率化を実現した新型となった。さらに、マイルドハイブリッドシステムが搭載され、減速時のエネルギーを利用してISG(モーター機能付発電機)に発電して2種類のバッテリー(アイドリングストップ車専用鉛+専用リチウムイオン)に充電、充電された電力は加速時にモーターアシストされることで低燃費を実現している。
WLTCモード走行による排出ガスや燃料消費率(NA車はJC08モード走行時も併記)に対応し、NA車は「平成30年排出ガス基準50%低減レベル(☆☆☆☆)」認定、ターボ車は「同25%低減レベル(☆☆☆)」認定をそれぞれ取得しているが、NA車はJC08モードでの燃料消費率が初代モデルよりも低下したため、NA・2WD車は「2020年度燃費基準+20%」達成、NA・4WD車は「2020年度燃費基準+10%」達成となった。
4WD車においては、初代モデルから引き続き装備されている「グリップコントロール」や「ヒルディセントコントロール」に加え、雪道やアイスバーンでの滑りやすい路面において過大なエンジントルクを抑制し、発進や加速の際にタイヤの空転を抑えることでスムーズな走行を可能にするとともに、約30km/h以下ではスリップ輪全体にブレーキ制御も併用することでより安定したグリップ走行を実現する「スノーモード」が新たに装備された。
安全面においては、初代から引き続き採用の「デュアルカメラブレーキサポート」が夜間の歩行者の検知に対応した改良型となり、ヘッドランプのハイビームとロービームを自動切替するハイビームアシストや、最高速度・はみ出し通行禁止・補助標識「おわり」・車両進入禁止に加えて一時停止の認識にも対応した標識認識機能が追加されたほか、リアバンパーに4つの超音波センサーが内蔵されたことで、後退時用衝突被害軽減ブレーキ「後退時ブレーキサポート」も備わり、誤発進抑制機能は前方に加えて後方にも対応、リアパーキングセンサーも搭載された。ターボ車ではさらに、スズキの軽自動車では初となる全車速追従機能を備えたアダプティブクルーズコントロール(ACC)と作動状態に走行中、車線逸脱の可能性が高いとシステムが判断した時に車線逸脱防止方向へのステアリング操作を促し、車両を車線の内側へ戻す支援する車線逸脱抑制機能も併せて装備された。
さらに、スズキでは初となる9インチHDディスプレイを備えたメモリーナビゲーションがメーカーオプション設定された。本ナビゲーションはGPS・みちびき・GLONASSのトリプル測位に対応し、Apple CarPlay・Android Autoに加えてSmartDeviceLinkにも対応したスマートフォン連携機能や全方位モニターも備える。メーターにはスズキ初の4.2インチカラー液晶ディスプレイが搭載され、エンジン回転数・平均燃費/航続可能距離・エネルギーフロー・燃費履歴・アイドリングストップがアニメーションやビジュアル込で表示されるほか、前述のメモリーナビゲーションとの連携により交差点に関する情報をメーター内ディスプレイ上に表示させることも可能である。なお、「スズキ セーフティ サポート非装着車」の場合はメモリーナビゲーションの設定が不可となり、メーター内のディスプレイはエネルギーフローインジケーター・平均燃費・渡航可能距離などが表示可能な単色表示マルチインフォメーションディスプレイとなる。
同社デザイン部門からの提案と社内公募により、「ラフロードを軽やかに走る、活き活きと走る」イメージから、かつて、同社2ストロークオフロードバイクのTSで使われていた愛称を流用した。スズキの純正アクセサリーにはかつてTSで使用されていたエンブレムの復刻版ステッカーも用意された(初代モデルのみ)。